更年期障害

T・S子 51歳  神戸市 主婦

更年期障害で苦しんでいます。
症状はホットフラッシュが主で、急に顔がほてり、汗が噴き出し、目がくらみます。
数年前から足の冷えが気になっていましたが、閉経と同時に不眠が始まり、全身倦怠感があります。
このしんどさはなかなか家族には理解してもらえず、姑にはサボっていると陰口を叩かれ、ひどく落ち込んでいます。
更年期障害は治せるものなのでしょうか。

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日本の女性の閉経年齢は平均、50.5歳と言われています。
更年期とは、この閉経前後の5年間の時期で、45歳~55歳の期間に生ずる不定愁訴を更年期症状といい、「更年期障害」の定義は「更年期における多様な症候群で、「自律神経失調症である」とされています。


S子さんにはホッとフラッシュを始め、足の冷え、目のくらみ、不眠、全身倦怠感などの症状がでています。

更年期障害は、加齢に伴う卵巣機能の低下が視床下部脳下垂体の神経活動に変化をもたらし、自律神経失調症など、内分泌系、免疫系の失調症状が表れます。
また、この時期の環境変化や人間関係の変化で心理的ストレスを強く感じ、抑うつ、不安などの神経症状が出やすくなります。


このように、更年期障害は実に様々な症状がありますので、3つのカテゴリーに分けて整理しましょう。


1) 自律神経失調症状
  血管運動神経症状=急なのぼせ 発汗 寒気 
            冷え・動悸
  胸部の症状 =  胸痛 胸部圧迫感 息苦しさ
  全身的な症状= 疲労感 頭痛 肩こり めまい 
            睡眠障害


2) 精神的な症状
  情緒不安定=イライラ 怒りっぽい
  抑うつ気分=涙もろくなる 意欲低下
  不安感 = 集中力低下 人の目が気になる

3) その他の症状
  運動器の症状=腰痛 関節痛 筋肉痛 
         手のこわばり むくみ感 しびれ。
  消化器の症状=吐き気 食欲不振 腹痛 便秘 下痢
  皮膚・粘膜症状=乾燥肌 湿疹 かゆみ 蟻走感
  泌尿生殖器の症状=排尿障害 頻尿 性交傷害 外陰部違和感
  (参考資料・「さがらレディクリニック・現代医学による更年期障害の診断と治療」)


まとめていて恐ろしくなるほどの、様々な症状が閉経期の女性を襲ってきます。
そして、S子さんも書いておられるように「姑にはサボっていると陰口を叩かれ、ひどく落ち込んでいます」と、なかなか、まわりの人には理解しにくい疾患です。

このように、更年期障害で苦しんでおられる女性のために、S子さんの了解のもと、その治療法と治療経過を時間軸で紹介します。
(S子さんは週1回の治療。疾患軽減数値をそのつど出していただきました。初診時が「10」です)


第1診(一週目)
・のぼせと発汗が一番気になるとのこと。次いで、足の冷えと全身倦怠感を何とかして欲しい、と。

 経穴は「心兪」、「腎兪」、「次髎(じりょう)」などの、 更年期障害に 関係するツボに置鍼。
 足の血行促進のために「血海(けっかい)」、「三陰交(さんいんこう)」 など。
 全身の気の調節に「太谿(たいけい)」、「足三里」、「復溜(ふくりゅう)」 など。
 (評価値・8)


第3診(三週目)
・のぼせは続いているが、足の冷えはやや緩和されてきた。
 全身倦怠感は変わらず。肩こりががひどくなる。
 (評価値・7)


第7診(七週目)
・のぼせと発汗が、一日に何回も起きていたのが、1~2回に治まってきた。
 全身倦怠感も、肩こりだけが感じるようになる。めまいは続いている。冷えは治まってきた。
 (評価値・5)

第10診(十週目)
・のぼせと発汗は、たまに起きる程度にまで軽減。
 肩こりは治らない。めまいも続いている。治まっていた不眠が発症。なかなか寝付けない。
 (評価値・6)

第13診(三ヶ月目)
・のぼせと発汗はほぼ治まっている。
 肩こりは軽くなり、たまに起きていた頭痛は無い。めまいは起きていないが、いつ起きるかが不安。
 不眠は、寝つきはよくなったが、早朝によく夢を見ていて、眠りが浅い感じがする。
 (評価値・3)



初診以来、3ヶ月を経過。「10」あった疾患度が、「3」にまで軽減された時点で、隔週の治療にする。
S子さんは、1年経った今も定期的に来院され、「保険のためにきています」と、笑顔を見せられるようになっています。


更年期障害の経穴は基本的に上記のツボを中心に刺鍼しますが、症状に応じてツボを増やしたり、変更していきます。
さて、中医学では更年期障害を「腎気の衰え」と捉えます。
この「腎気」に関して、少し遠回りになりますが、東洋医学的に更年期障害を分かりやすく説明します。



人間の成長・発育は、女性の場合「7年周期」、男性の場合「8年周期」とされています。
(ここでは女性の「7年周期」に触れます)

人間の成長は「腎気」によって行われます。
世界最古の医学書の「黄帝内経(こうていだいけい)」には、女子は

  • 7歳で腎気の働きが盛んになり、歯が生え変わり、
  • 14歳で性腺ホルモンが充実し、
  • 任脈(体の縦に流れる経絡)、衝脈(体の横に流れる経絡)を通じて月経が始まり、
  • 21歳で腎気平均し、身体成長する。
  • 28歳で筋骨堅く強く、充実期。
  • 35歳で手足陽明経脈が衰え、
  • 42歳で手足の三陽経脈(手では大腸経、小腸経、
  • 三焦経など)が衰え、白髪が混じりだし、
  • 49歳で任脈空虚になり、月経停止になる。

また、「子宮は腎に繋がる」と記載されており、腎との関係が重要視されています。
この腎は元気の元であり、精を蔵して人体の成長、生殖をつかさどる。

すでに数千年前に、49歳で閉経することが記されていますし、その理由として49歳前後になると腎気が衰え、任脈と衝脈に血を注ぐことができなくなり閉経となるのです。
腎精は月経や妊娠の物質的基盤となっている、と。


更年期障害は実に様々な症状となって表れます。
その症状を一つ一つ追いかけてしまうと間違った治療法となり、治療者も患者さんも迷路に入り込んでしまうのです。

例えば、「ホットフラッシュ」、「冷え」、「頭痛」という症状を取ったとしても、次には「肩こり」、「めまい」、「不眠」などの症状が表れ、それらの症状を改善すると、また別の疾患が顔を出す、といった具合です。

まず、全身の「気」の循環を改善するという、大きな目標を第一として、各症状の改善をはかるべきでしょう。
治療者も患者も一喜一憂せず、気長に更年期障害という、厄介な全身性疾患とつきあっていくことが大切でしょう。